2025.12.23

初対面だからこそ、伝えることができる“場”としてありたい

PROJECT

ことなるわたしたち

山瀬まゆみ Mayumi Yamase

「ORBIS IS」が今年の9月からスタートさせた特集企画。連載『月曜、朝のさかだち』と『ことなるわたしたち』では “「伝える」がほどけていく”を共通のテーマにし、これまで記事やポッドキャストを通してさまざまな“伝える”ことのあり方を届けてきた。そして、今特集の最終アウトプットとして、編集部から届けるだけでなく、読者のみなさんから私たちに“伝えてもらう”対面イベントを企画。

2025年11月14日、「COUNTER BOOKS」にて、12人の読者の方たちを招集。参加者は皆さん初対面の間柄。ファシリテーターとして編集部員の“エッキー”こと榎本有妃、“ひなこ”こと神谷日向子が、スナックのような空間を目指し、一杯を交わし合いながら、参加者と語らい合う場を設けた。

親しくあればあるほど、話せないことがある

今回、集う参加者たちは全員初対面。そこにあえてこだわった所以としては、初めて同士であるからこそ、忌憚の無い、本音の話しができるであろうと感じたから。時に、私たちは、仲がいいからこそ“空気を読んで”、“距離感の間合い”を図り、交友関係を良好にしていく手段を選んでしまう。だからこそ、友達には“重く”なってしまいがちなことも、初めての人だとつい“軽く”話せてしまうことがある。編集部では、その心理を汲み取り、事前のアンケートから吸い上げたさまざまなテーマをピックアップ。

当日は、これらのテーマの中から、5~6人1グループとなり、みんなが話したいと思うテーマを一つずつピックアップしながら話していった。エッキーとひなこは、今回のイベントを通して、何に共感し、何を俯瞰できたのだろう?

“どうして人に気を遣ってしまうのだろう”について考えてみる

今回のイベントで特に盛り上がったのはこのテーマ。ファシリテーターの二人も大いに共感し、事前の社内デモンストレーションでもこのテーマは社員それぞれも共感を持った話題だったという。

神谷 _「今回の参加者の方とは、世代も違う人が集まったというのに、どの世代においても共通して感じていることなんだなと改めて思いました。エピソードは色々出てきましたが、余計な気を遣ってしまうことで、後手に回ってしまい、結果的に逆に気の利かない人間のように見られてしまうことのやるせなさ、みたいな感情を持っていて。皆さん、そういうことに気づいてしまうし、考えすぎてしまうことがあるんだなって。」

良く見られたいという想いが、気遣いへと発展していく矛盾

榎本 _「それでいうと、人との関わりをやめた時、自分が知らず知らずのうちに気を遣っていたことに気づいたという人もいました。コロナ禍になって、ソロ活を楽しむようになり、“ひとり”に充実感を得られた時、人と関係性を作るために自分が嫌われないような行動をしてしまっていたことに気づいたとおっしゃっていた方がいて。私もすごくそこに共感できるというか。“人に好かれる”ために変に気を回して、人の機嫌を取って、“自分がいい人”に思われようとする。それって、自分可愛さでやっているものでもあって、本当の意味の“気遣い”ってそうじゃないよなって思ったりして。そんな話で皆さんと盛り上がることができました。」

神谷 _「わかる。何のための気遣いなの? を深掘っていくと、意外と自分がよく見えるためみたいなパフォーマンスという側面もありますよね。 」

“こうあるべき”。正解が出せないことには、別の選択肢を見つける

神谷 _「トピックで印象に残ったのは、さまざまなテーマの派生で、接客業の方の“風貌”の多様性に違和感を持ってしまう人の話です。業種にもよりけりですが、きちんとしている服装というのに対して、“こうあるべき”というボーダーラインがあるという話があって。でも就業規則に則って相手も働いているわけですから、相手が変わる必要はないわけじゃないですか。なので、そういう時はどう折り合いつけているんですか?と聞いたら、別の店を選ぶとおっしゃっていて。わざわざお互い嫌な気持ちを持ちあうのも意味をもたないのだから、距離をとって、自分の心を守るような行動をとる割り切り方をする。その棲み分けがあるっておっしゃっていて、なるほどな、と感じました。 」

榎本 _「服装という側面では、自分に合う年相応の装いというのがわからなくなってきているという人がいらっしゃったんですよね。年齢に関わらず、好きな服を着続けることがカッコイイという意見もある中、逆に外から見たら全然似合ってると思えないのに、それに気づかず好きで着てしまっているというのは違うのでは?という意見もあったりして。これってどっちも正解でも不正解でもないから、どうしたらいいんだろうっていうのは素直に思いました。私はまだ、好きな服を着ている方かなと思うんですけど、その世代を迎えた時、自分はどっちの選択肢を取るんだろうとか。そして誰のための似合うなんだろう?と考えたりもしました。」

答えを出すためだけではなく、吐き出すための“伝える”という場がある

イベントを通して、会話を重ねていくほどに、参加者たちの緊張した顔色はどんどんとほどけていった。

榎本 _「だんだんと皆さんが積極的に話していって、終わりにはスッキリした表情になっていったのは、このイベント冥利に尽きると思いました。私も同じ意見ですよっていう風に共感してくれる人がいるからこそ、それが成り立ったのかなと思って。そういう場を作れたのはすごく良かったと思います。 」

神谷 _「初対面だけど、不思議となぜか心理的安全性が守られていたというか。誰もがそれぞれ、話し出し、話を聞き、受け入れる準備ができていた人たちだったのかな、と思います。どこまで心を開けるかみたいなのが心配ではあったのですが、職場の人とか家族とか近しい人には逆に喋らないことを色々と話せているんだなっていうのが実感できて、いい場だったなと思います。 」

榎本 _「参加者の方々が自分より経験豊富な方ばかりだったというところもあり、皆さん精神的に自分たちなんかよりもすごく熟していらっしゃるのが印象的でした。割り切って、自分を守っているものがあるという面もすごい感じたものの、きちんと自分の中で譲れない部分も持ち合わせている。そんな人たちが、この場を借りて色々と吐き出してくれたようにも感じます。今後もそういう場を作っていければと思いますね。


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Photo Cosmo Yamaguchi / Text&Edit Chie Kono / Produce Ryo Muramatsu

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