ホットサンドを作る朝 haru.×三宅香帆【後編】
月曜、朝のさかだち
『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第16回目のゲストは文芸評論家の三宅香帆さんをゲストにお迎えしています。 記事の前編では、ホットサンドを作った朝活を振り返りながら、思い出に残っている食事シーンが描かれた物語、二人が辿ったインターネット、SNS文化、三宅さんが文芸評論家になったきっかけ、発信者の“態度”の重要性についてお話しいただきました。

後編では、雑誌・本が持つそれぞれの役割、プラットフォームごとに異なる言葉との距離感、年齢や経験とともに変化する自分というキャラクター、コンテンツ制作時に葛藤する“有益さ”についてなど、盛りだくさんにお話しいただきました。

本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

三宅香帆さんに聞きたいコト
Q.積読にブレーキはありますか? または実際の読書量の何倍くらい積読されてますか?
A.怖くて数えたことはありません!
Q.読了後の手放す本の基準があれば教えて頂きたいです
A.いまだに迷い中です。
Q.三宅さんの幼少期はどんなお子様だったのかお聞きしたいです!読書好きの息子がいて気になります。
A.本や漫画が好きで、外で遊びたくなくて、偏食のひどい子どもでした。ほんとに給食を食べられなくて運動もできなかったのですが、いま健康なので、あの給食残すな圧と外で遊べ圧は何だったのかといまだに思います。

言葉とビジュアル
それぞれの視点から見る心地のいい部屋
haru._三宅さんはPodcastやYouTubeと、幅広く活動をされていますが、本を書くこと以外のコンテンツ作りを始めようと思ったのはなぜですか?
三宅香帆(以下:三宅)_ ずっと本を書いてきて思っていたことなんですけど、新刊が出たことって、書店に行かないとわからないんですよね。映画だったら、主演の俳優さんが朝の番組に出て宣伝したり、映画館に行ったらもうすぐ公開される映画の予告が上映されていたりと、いろんな方法で知れると思うんです。でも、新刊って宣伝費も高くないので、せいぜい新聞広告ぐらい。どうやったら本を知ってもらえるだろうって考えていたときに、たまたまYouTubeに出る機会があったんです。そしたら、その動画の反響がすごくて、動画を通して知ってもらうっていう手もあるんだと思い、そこから動画や音声を始めるようになりました。
haru._自分のメイン活動をより広く知ってもらうためだったんですね。
三宅_そうですね。そこが入り口になればいいなと思っています。
haru._Podcastを聞いていると、三宅さんのファンが聞いていらっしゃるんだなって思います。
三宅_ありがたいです。
haru._『視点倉庫』*①っていうPodcastなんですけど、とってもおもしろいです。
三宅_毎シーズンごとに、「仕事」「メディア」「買い物」っていうテーマを設けて、私が一人で喋る回と、ゲストを呼んでお話しをする回をやっています。
haru._本よりもその人のパーソナリティがダダ漏れるから、余計にファンになってしまいます。文芸評論家のファンになったのは初めてなので、不思議な感覚です(笑)。
三宅_記事の前編でも話した「態度」みたいなものが、音声や動画の方が伝わりやすいっていうのは、私もやってみて気づきました。文章だけよりも、人間が伝わる感じがある。
haru._一人語りなのに、ずっとテンション高めにやられているじゃないですか。「こういうことがおもしろくて好き」って言われると、自分もそこに乗っかってみようかなっていう気持ちになれるんです。本を読むってすごく能動的な行動だから、手に取るものはどうしても興味が偏ってしまうんです。でも音声だと、話している内容もそうですけど、その人のテンションや態度に惹かれちゃうことがあるんですよね。そのまま新しい世界に気づいたら飛び込んでいるみたいな体験が多いので、私はPodcastがすごく大好きなんです。
三宅_確かに、私もラジオやPodcastが好きでよく聞くんですけど、音声ならではの嘘つけない感ってあると思っていて。例えば、会社にやらされて喋ってるんだろうなみたいな出版社の人のPodcastを聞くと、「そんな無理して喋らんでもいいのに」みたいなことを勝手に言いたくなったりします(笑)。でも、逆にそれがある意味いい味になることもあるし、音声は嘘をつけないなって思います。
haru._わかります。必ずしも、紙媒体がある出版社がやっているPodcastが、紙媒体と同じようにおもしろいわけでもないですよね(笑)。
三宅_そこはまた違う話なんですよね。
haru._先輩後輩の気まずそうな関係性とかも伝わりますよね(笑)。
三宅_音声ってめっちゃ伝わりますよね!微妙な関係性のちょっとした沈黙とか。仲悪くなったのかな?みたいなのも感じます(笑)。
haru._人間ドラマを感じますよね。
三宅_ラジオってそこがおもしろかったりするんですよね。書籍って、コンテンツと態度の話をすると、コンテンツを伝えるということにかなりプロの手が入って、圧縮した情報を伝えることが大事なメディアなんですよね。それに比べると、音声や動画はもう少し態度のところが重要視されるメディアで、それ故の伝わりやすさがあって、コンテンツにそこまで興味がなくても態度で聞ける側面があるなって思います。
haru._だからこそファンが一番つきやすい部分でもあるのかなって思いました。
三宅_それで言うと、「haru.さんの喋り方のその間ってどうやったら取れるんですか?」っていうことを今日は聞きたいと思ってやってきたんです。間がすごく素敵なんです。
haru._そうですか?あまり思ったことないですし、初めて言われました。
三宅_衝撃の展開。いろんな人に言われてると思っていました。沈黙っていうほど長くないんですけど、ちゃんと改行してるイメージ。お一人で喋っていても、お二人で喋っていても、すごくちょうどいいんですよね。どんな秘訣があるんだろうと思っていました。
haru._私は言葉が自分の見方をしてると思ったことがないんですよ。だから、一度頭の中を言葉が掠める感覚があって、そのときに頭の中の言葉を読む時間みたいなのが一瞬発生している気がします。
三宅_口よりも先に文章の方が頭に浮かぶっていうことですか?
haru._そうですね。ちゃんとした文章ではないんですけど、単語が出てきて、それを読むみたいな時間は発生している気がします。
三宅_なるほど。脳内で何かを捕まえているんですかね。
haru._でも、語彙やボキャブラリーの無さで、「この言葉じゃないんだよな」みたいな時間があるので、もしかしたらその間かもしれない(笑)。
三宅_でも、言葉をちゃんと吟味しているっていうことなのかもしれないですよね。
haru._三宅さんのPodcastを聞いていると、「その言葉だ!」みたいなものが、間がなくスッと出てきて、言葉をやっている人ってこういうことなんだなっていう感動があります。
三宅_長谷川あかり*②さんっていう料理家の方と旅行に行ったときに、長谷川さんもすごくお喋りなんですけど、「なぜ我々の喋り方はミステリアスさのミの字もなく、全てをダダ漏れにしてしまうのか」ということですごく盛り上がったんです(笑)。だから、私には間が必要なのかなと思ったんですけど、それは人それぞれなんですかね。
haru._言葉との距離感もあると思います。
三宅_確かに、自分と言葉の距離感って人によってすごく違いますよね。
haru._私はドイツ語とかでも人格が変わっちゃったりするので、言葉は自分自身ではないっていう感覚がめっちゃあるんですよね。そこの違いもあるかも。
三宅_それで言うと、PodcastとSNSで発信する言葉と、雑誌を作っているときの言葉って、それぞれ距離感が違ったりしますか?
haru._違いますね。雑誌のときが一番自分と近いって思いますね。自分が作った場所だからっていうのがあるんですよね。
三宅_ホームとか、部屋みたいな感じなんですね。
haru._Instagramも部屋なんですけど、ショールームって感じ。
三宅_すごくわかります。私はInstagramがすごく苦手で、いつも試行錯誤しているんです。自分の言葉って、Instagramに載せるにはうるさすぎるんだよなって思っていて(笑)。普通に書いたら、書いただけの言葉のはずが、Instagramに載せると、なんだか声の大きさと部屋の大きさのバランスが合っていないのか、インテリアが違うのかよくわからないんですけど、何をどう調整したらいいのかいまだに試行錯誤しています。
haru._プラットフォームによってそういうのありますよね。Instagramって視覚的なものがすごく大きいから、私は楽なんです。私は完全に視覚の人間だから、そこが整ってさえいれば、ちょっとした言葉で部屋の内装が完成する感覚があるんですけど、動画がめっちゃ苦手なんです。喋っても喋っても埋まらない、広い公園にちまちまディテールを凝ってしまって、わけがわからなくなってしまう感覚があって、YouTubeはなかなか始められないんです。
三宅_なるほどねー!おもしろい! 「部屋が埋まらない」か。私は動画とかになった方が、この己の声の大きさに耐えられるみたいな感じがします。
haru._でも動画っていう部屋と三宅さんがすごくフィットしてますよね。
三宅_埋めるということもあるし、視覚情報にどれだけ敏感なのかっていうのもあるかもしれないですね。私は本当にデザイン及び視覚に対して、どうしていいかわからないっていう感覚がずっとあるんです。だから、言語で全部言わせてくれたら楽なのにって思っています(笑)。でも、動画や音声をやるたびに、なんて文章って楽なんだっていう気持ちになって、書くのが今では一番楽だと思っています。
haru._それの真逆です。
三宅_雑誌はビジュアルから考えていくんですか?
haru._そうです。まずビジュアルから入るっていう作り方をしています。
三宅_例えば、雑誌の特集の言葉があるじゃないですか。そういうのは最後の方に決まるんですか?
haru._割と最後が多いです。
三宅_おもしろい!本当に真逆ですね。私はコンセプトを言葉にしないと始められないところがあるので。でも、どっちが優位に動くかって脳とかでもあるみたいですね。視覚優位か言語優位かみたいな。だから教科書で教えた方がいいのか、講義で教えた方がいいのかは人によって違うそうです。
haru._私が通っていた学校は教科書がなかったんです。先生が話していることを絵に描いたり、言葉を拾って自分のノートを作ったり。そう思うと雑誌作りに若干似てたりするんですよね。Podcastもまた違う家ですよね。家を背負ってるみたいな、背景みたいな。
三宅_わかります。屋号みたいな感じがありますよね。YouTubeとかよりもPodcastの方がプラットフォーム感がないというか。聞きにきてくれてる人に喋ってるけど、自分の家に呼んでるって感じがします。
haru._わかります!三宅さんのPodcastを再生すると、三宅さんが自分の家を背負ってそこに現れるんです(笑)。
三宅_カタツムリ的な(笑)。
haru._そうそう(笑)。文芸評論家にファンがついて本が売れたりすると、小説も一緒に盛り上がっていくんですかね?
三宅_わからないですけど、私は書店に来る人を増やしたいと思っていて、その先にテキストを読む人が増えてほしいんです。なので、必ずしも評論や批評が好きじゃなくても、本を好きになってくれたら一番嬉しい。ていうか、書店が身近になってくれたら嬉しいなという思いで活動しています。
haru._三宅さんが紹介してたから読みたいなって思いますし、そうやって盛り上がっていくんだろうなって思います。
三宅_書店に行く機会がないとか、久しぶりに書店に行こうかなって思えるきっかけがない人も多いと思うので、そんな人のきっかけになれたらなっていうのが一番にあります。この世から文字を減らしたくないっていう感覚が大きいんです。文字を読むのが好きなので、普通にしてたら文字が減ってしまうっていう気持ちになっちゃうんです。
haru._だからいっぱい喋るのかな。
三宅_そうかもしれない。みんなにも文字を書いてほしいので。なので、書店に来る人を増やしたいなって思っています。

自分の好きなことを見つけるために
haru._三宅さんの新しい書籍『考察する若者たち』*③のあとがきがすごく好きでした。やりたいことや自分の感想を見つける方法ってどんなことがあるのかを、最後に数項目書いていますよね。私も「どうやったら自分の好きなことを見つけられますか?」とすごく聞かれるんですよ。でも、毎回答えに詰まっていたので、これからはここに書かれている項目を全部言おうと思いました(笑)。
三宅_ぜひ使ってください(笑)。
haru._一番最初の項目に「本や雑誌を読む」と書いてあって、それも嬉しかったです。
三宅_私は好き嫌いがすごくはっきりしていて、好きなものが多いって思われがちなんですけど、どちらかと言うと嫌いなものも多いんです。だから、「どうやったら好きなものを見つけられますか?」って聞かれたときに、改めて自分はどうしていたのか考えてみたら、時間を待つことが大事だなと思ったんですよ。本とか雑誌を読むのもちょっと時間がかかるじゃないですか。でも、それもまた大事だと思っていて。
haru._私が雑誌とかから影響を受けていたのって、中身の写真がかっこいいとかもあったけど、編集部の熱量とか態度みたいなところにすごく惹かれていたんですよね。でも、「これじゃなきゃダメだ!」ほどの熱量のものじゃなかったとしても、一度その態度を演じてみるとかでもいいのかなって思ったりしました。
三宅_確かに雑誌とかを読んでいると、ぼやっとその態度が感染したり、「こういうふうな感じでいいんだ」って思えることって結構ありますよね。しかも、何号か続けて読んでいると、よりそのぼやっとしていたものが分かっていくみたいなこともある。それってランダムに流れてくる人たちのショート動画を見るのとは、また違うなって思いますね。
haru._より生き物っぽいですよね。
三宅_確かに生き物ですね。変化もするし。
haru._三宅さんが好きで読んでいた雑誌ってありますか?
三宅_もともと『ダ・ヴィンチ』*④っていうKADOKAWA出版社から出ているエンタメ、純文学問わずいろいろ載っている雑誌があって、中学生の頃にそれを読むのがすごく楽しみでした。中学生、高校生と図書委員をやっていたんですけど、それも廃棄することになった『ダ・ヴィンチ』のバックナンバーをもらえるということが楽しみでやっていました。あとは、大学でフリーペーパーサークルに所属していたんですけど、そのときには『BRUTUS』*⑤の文体に憧れていました。
haru._雑誌を読んでいても、テキストに惹かれていたんですね。今聞いていて衝撃を受けました(笑)。
三宅_そうかも!フリーペーパーサークルに所属していたときも、「三宅の記事は文字が多いからレイアウトをどうしたらいいんだ」って言われていました(笑)。レイアウトありきで考えていなかったんですよね。
haru._私はレイアウトしか考えていないです(笑)。
三宅_そうですよね。雑誌って本当はそうなんですよね、きっと。
haru._もちろん言葉も本当に大事だと思うんですけど、私はページの流れとか、レイアウトの痺れとか、そういう見方をしていました。
三宅_中高生の頃ってどういう雑誌を読んでいましたか?
haru._めっちゃいろいろ読んでて、ギャル雑誌からセレブ雑誌、メンズファッション誌まで読んでいました。ファッション誌が好きで『VOGUE HOMME』*⑥を海外から取り寄せて、匂いとかをめっちゃ嗅いでました(笑)。
三宅_雑誌って中古があるのもいいですよね。私は京都で学生生活を送っていたので、京都の古本屋さんって結構昔の雑誌が多くあって。そこでも私は読みものを読んでしまうんですけどね。
haru._私とは買い方が違います。私はページをパーっと見て、ビジュアル的に好きなページが多い順に買っていました。
三宅_ビジュアルが好きっていうのは、写真の撮り方とかってことですか?それとも好きなコーディネート?
haru._全部かもしれないです。いろんな要素が相まって、「わー!」って気持ちが高まる瞬間が多いものを優先して買っていました。
三宅_一人Pinterest*⑦をやってるみたいなことですよね。その「わー!」って一番最初になったものって覚えていますか?
haru._それこそ記事の前編でも話した、ブロガーもさせてもらっていた『ELLE girl』*⑧っていう媒体が、当時は紙雑誌もあったんです。それがA5くらいの可愛いサイズだったんですよ。当時は洋楽が流行っていて、マイリー・サイラス*⑨とかがめっちゃ好きだったんです。彼女がボーダーのワンピースを着て、リップ型のソファーに座っている表紙があって、それに結構衝撃を受けて買ったのを覚えています。
三宅_私はその頃、穂村弘*⑩さんの歌集を買っていました(笑)。でも、雑誌って本当にレイアウトの世界ですよね。だからその情報を切り取ってInstagramに載せたからといっていいってわけでもないんですよね。でも、私もいまだに女性誌をファッション目的で買って楽しんだりしているんですけど、今って割と全部Instagramに載せてくれるじゃないですか。だからときめきが全然違うんですよね。
haru._一冊のオーラみたいなものがありますよね。
三宅_そうそう!それに雑誌って時間を贅沢に使ってる感じがあるんですよね。雑誌を買って、お茶を飲みながら読む時間が一番贅沢しているなって気持ちになります。
haru._わかります。特集があって、それに対して編集部の一人ひとりが「自分はこの企画でいく!」みたいに思いを持ってくるその世界が、なんか良すぎるんですよね。
三宅_私はすごく個人事業主な性格をしているので、何をするにしても一人でやりたいことを決めて出しているので、雑誌みたいにみんなで作るみたいなことに永遠の憧れがあります。
haru._でも、私は三宅さんのPodcastでのテーマ設定の明瞭さにめっちゃ憧れます。「自分は今これに興味があります!」って言い切れる感じが自分にな無いなって思っちゃうんです。だから一人語りできないんだろうなって思います。Podcastもゲストがいるから成立しているんですよね。
三宅_会話のシナジーの中に何かが生まれるみたいな感じなんですね。
haru._私は自分のことが見えていないので、他者を通して自分を知ることしかできないっていう感覚があるんです。だから、特集も「私が」というよりも、今目の前にいる人を通して何が見えるかみたいな感じになって、大きな曖昧なテーマになることが多いんです。
三宅_そうなんですね。でも『High(er) Magazine』*(11)ってすごくharu.さんを感じるんですけど、あれも自分っていう感じでは無いんですか?
haru._でも、何が私っぽいかって言えなくないですか?
三宅_なるほど。確かに言葉にするのは難しいかも。
haru._自分の無さが私っぽさなんだなっていうのはあるんですけどね。
三宅_私的には、haru.さんと初めてあったときから、森っぽいなって思ってるんです。だから、森自身は確かに森のことは見えないよなって思いながら、今聞いていました。
haru._でもその感覚はあります。みんなが過ごしてくれる場所みたいになれたらいいなって思います。三宅さんのあとがきに「自分のキャラじゃないことをしてみることも好きなことを見つけることに繋がる」って書いてありましたけど、三宅さんは自分のキャラをどう自認しているんですか?
三宅_それで言うと、人とご飯を食べたりするのは実はあまりキャラじゃないことなんです。二人でご飯を食べることはするんですけど、4人以上になると頑張ることになってしまうんです。それでもやってみると結構楽しかったりするので、たまにはキャラじゃないこともやるべきだと自分に言い聞かせています。
あと、本名で本を書くっていうのもキャラじゃないんですよね。友達と話すときの言葉と、親と話すときの言葉、日記を書いているときの言葉って全然違う言葉の感じがしていたんです。本を書くって、その全員が読む言葉じゃないですか。だから、「キャラじゃないけどどうしたの?」って自分でも思っていたんですけど、やっていくうちにちょっとずつ統合されていったことを今思い出しました。
haru._テレビなど、表に出ていくこともキャラとは違うことなんですか?
三宅_そうですね。中学生、高校生の頃に仲が良かった人たちからすると、自分がこんなふうに前にでて喋ってるなんて、「あの三宅が?」みたいな感じだと思います。なので、結構キャラじゃないことを積み重ねて、今こうなってる感じがします。
haru._自分のキャラって、側から見たら全く違うみたいなことも結構ありますよね。
三宅_それもありますね。年齢を重ねていくうちに違うキャラがやってくるみたいなこともありますしね。小学生の頃は、自分の一番の長所って、協調性があることだと思っていたんです。でも、今思うとそうじゃないなとも思っていて。友達に「三宅ほど頑固な人見たことない」って言われて、自分って頑固だったんだと気づくみたいなこともあります。案外、謎のキャラを自分で自分に縛り付けていることもある気がします。
haru._日本の教育だと協調性があることをすごく評価されるじゃないですか。その人間像で生きてきたけど、小さい頃にドイツに行ったとき、「自分がない」「お前はどうしたいんだ?」ってめっちゃ言われて。こうしていたら褒められると思っていたのに、なんだか様子がおかしいぞってなったんです(笑)。協調性って、人と関わっていくうえで、そこまで大事なことではないのかもしれないという発見がありましたね。
三宅_めっちゃわかります。私も高校生ぐらいまでは能力が高ければ高いほど、謙虚でいなければならないと思っていて。でも、大学に入ると自信家がすごく多くて、「それでいいんだ」って思えたんですよね。自己肯定感が高かったり、自信がある人は、それを言ってもいいんだっていうのはすごくびっくりしました。むしろ、自信があるってことは言った方がいいし、謙虚であることを褒めるのって変では?と今では思っています。でもそれも大学に入らないと気づかなかったなと思いますね。
haru._自分も人を褒めるときに気をつけようと思いました。
三宅_わかります。でも、日本のスターに対しては特に傲慢じゃない姿を褒める文化がすごくありますよね。
haru._でもそれってその人のパフォーマンスに関係なくない?って思います。どんな人間像になりたいかは、30代になってまた最近考えています。
三宅_キャラじゃないことをやってみた方が、変な縛りが取れることがある気がします。

有益さと楽しさのバランスの難しさ
haru._自分はコンテンツを楽しむときに、その内容がめちゃくちゃ有益とか、勉強になるって思わないものの方が楽しめている節があって。でも、自分が何かを作るとなったときには、なかなかそうは思えなくて。このPodcastも、みんなのためにいろんな人の話を聞いて、みんなの代わりに勉強しようっていう気持ちが最初は強すぎたと思っているんです。ちょっと真面目すぎるかな?と思いつつ、世の中にコンテンツが溢れているなか、あえてこの番組を聞いてもらうには、やっぱり勉強の要素が必要なんじゃないかなって考えていて。三宅さんはそういうことを考えながらコンテンツを作ったりしていますか?
三宅_それこそ『考察する若者たち』で、今は「報われ消費」というものが流行っていて、それはおもしろいだけではなく、勉強になったとか、有益だったっていう部分がポイントとして足された方が流行りやすいということも書いているんです。私は本の最後にティップスみたいなものを載せるのが好きで、いつも載せているんですけど、ある取材でライターさんから「どうしていつもティップスを載せているんですか?」って聞かれて、もしかしたら自分も報われ消費的なものを作りたかったのかもしれないと気づいたんです。それは最近気づいたんですけど、読んでくれたからには最後に何かいいものをお土産に持たせたいみたいな気持ちもあるんですよね。でもそのバランスって難しいですよね。お土産だらけになってもなって。
haru._それはコンテンツを見てくれたり、聞いてくれている人のためというテイにしているけど、ただバカにされたくないんじゃないかなって自分に思ったりします。意味のないことをしていると思われたくないっていう気持ちがあるんじゃないかって思って、この間落ち込んだんですよね(笑)。
三宅_いや、でもわかります。とはいえバランス難しいですよね。「意味のないこと」って言ってくる人たちは、本当は相手にしなくてもいい気がするんですけど、とはいえ、有益なものの方が見たいと思ってくれる人はたぶん多いじゃないですか。そういう人に向けて親切にちゃんと渡して、でも楽しんでくれる人には楽しみも渡してっていうふうに、いろいろな人にいろいろなものを手渡したいと思うのなら、混ぜていくしかない気がする。
haru._そうですね。その混ぜ方ってセンスなんだなって最近は思います。『take me high(er)』*(12)にゲストで来てくれる人たちは「たわいもない話をしたい」ってみんな言ってくれるんです。私が思っていたよりも、ゲストは有益なことをあそこで話そうとしてなかったんだっていう発見もありました。
三宅_私は『take me high(er)』でharu.さんがジムに行ったか行ってないかの話をしているのがめっちゃ好きです(笑)。友達の雑談を聞いているみたいだし、そのくらいの感じの方がリスナーは嬉しいかもしれないですね。
それでは今週も、いってらっしゃい。
ゲストの三宅さんがパーソナリティを務める「いま誰かに向けて語るべき視点」を毎回1つピックアップして語るPodcast番組
* ②長谷川あかり
日本の女性料理家、管理栄養士
*③『考察する若者たち』
ゲストの三宅さんが執筆した新作新書。「正解を当てにいく」風潮から令和日本の深層を読み解く(PHP新書)
*④『ダ・ヴィンチ』
KADOKAWAが発行する総合文芸誌。小説、コミック、実用書、ビジネス書など幅広いジャンルの本や、それらを原作とする映画・アニメなどのエンターテイメント情報を取り上げている
*⑤『BRUTUS』
マガジンハウスが発行するポップカルチャーの総合情報誌
*⑥『VOGUE HOMME』
VOGUEが発行するメンズファッション誌
*⑦Pinterest
インターネット上の画像や動画をブックマークしてアイデアを収集・整理できる無料のビジュアル探索プラットフォーム
*⑧『ELLE girl』
フランス発のファッションメディア『ELLE』のシスターブランド。現在、日本では紙媒体の雑誌としては定期刊行されていない
*⑨マイリー・サイラス
アメリカ出身の世界的ポップアイコンであり、歌手・女優。ディズニー・チャンネルのドラマ『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』への出演で一躍有名になり、その後は独自の音楽性とファッションで世界的に活躍している
*⑩穂村弘
日本の歌人およびエッセイスト。今年で歌人デビュー40周年を迎えた。
*(11)『High(er) Magazine』
パーソナリティのharu.さんが手がけるインディペンデントマガジン
*(12)『take me high(er)』
パーソナリティのharu.さんと記事の撮影を担当しているmiyaさんがパーソナリティを務めるPodcast番組
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Profile
三宅香帆
文芸評論家。1994年高知県生まれ。京都大学人間・環境学研究科博士前期課程修了。天狼院書店京都支店長、リクルート社を経て独立。小説や古典文学やエンタメなど幅広い分野で、批評や解説を手がける。著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『「好き」を言語化する技術』『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』『考察する若者たち』等多数。